トリスタンとイゾルデ : Tristan und Isolde

『トリスタンとイゾルデ』(Tristan und Isolde)は、リヒャルト・ワーグナーが作曲した楽劇。台本も作曲者自身による。全3幕からなり、1857年から1859年にかけて作曲された。物語は、ケルトに起源を持つと考えられている古代トリスタン伝説によっており、直接的にはゴットフリート・フォン・シュトラスブルク(?-1210年)の叙事詩を土台として用いている。

トリスタンとイゾルデ / Tristan und Isoldeの登場人物

・ トリスタン(Tristan) (テノール)  コーンウォールの騎士。マルケ王の甥。
・ マルケ王(Marke) (バス)  コーンウォールの王。
・ イゾルデ(Isolde) (ソプラノ)  アイルランドの王女。
・ クルヴェナール(Kurwenal) (バリトン)  トリスタンの従僕。
・ メーロト(Melot) (テノール)  マルケ王の家臣。
・ ブランゲーネ(Brangane) (メゾソプラノ)  イゾルデの侍女。
・ 牧人 (テノール)
・ 舵手 (バリトン)
・ 若い水夫 (テノール)
・ 船員たち
・ 騎士たち
・ 小姓たち
・ イゾルデの侍女たち

トリスタンとイゾルデ / Tristan und Isoldeのあらすじ

第1幕 「アイルランドからコーンウォールに渡るトリスタンの船の甲板」

前奏曲
第1場
アイルランドからコーンウォールへと向かう船上。アイルランドの王女イゾルデは、コーンウォールのマルケ王に嫁ぐために乗船しており、マルケ王の甥トリスタンが船の舵を取っている。水夫の歌が聞こえ、歌詞に「アイルランドの娘」と出てきたことに、自分への侮辱を感じたイゾルデは身を起こす。侍女ブランゲーネがイゾルデの不機嫌を察してなだめようとする。イゾルデは、息が詰まりそうなので天幕を開けるよう命じる。音楽は、船が大海原を進んでいることを示す「海(航海)の動機」を繰り返す。
第2場
天幕が開き、水夫の歌が再び聞こえる。イゾルデは舵を取っているトリスタンの姿を見て、「私のために選ばれながら、私からは失われたあの人」と歌う。イゾルデはブランゲーネを使いに出し、トリスタンに挨拶に来させようとする。
ブランゲーネから請われたトリスタンは、イゾルデの名を聞いてたじろぎ、職務を口実に持ち場を離れることを断る。トリスタンの従者クルヴェナールが「モーロルトの歌」で主人を称賛し、船乗りたちがこれを繰り返す。イゾルデの婚約者だったモーロルトをトリスタンが討ったことを歌にされ、イゾルデは怒りを募らせる。
第3場
戻ってきたブランゲーネに、イゾルデは「タントリスの歌」で過去を語り出す。
かつてイゾルデの従兄で許嫁でもあったモーロルトがコーンウォールに朝貢を要求し、トリスタンは決闘でモーロルトを倒した。しかし、このときトリスタン自身も深手を負う。イゾルデが優れた癒しの術を持つことを知ったトリスタンは「タントリス」の偽名を使い、彼女に治療を頼んだ。イゾルデはトリスタンがモーロルトの仇であることに気づき、復讐のために剣を用意するものの、トリスタンの哀れな姿に剣を取り落とし、治療したのだった。
トリスタンはコーンウォールに戻るとマルケ王にイゾルデとの婚儀を勧め、そのための使者となった。したがって、イゾルデにとってトリスタンは婚約者を殺した仇であり、アイルランドからの「貢ぎ物」とされた原因でもあった。
ブランゲーネはイゾルデを慰めるため、マルケ王との結婚がうまくいくようにイゾルデの母が調合した魔法の薬を各種持参していると話すが、イゾルデはブランゲーネに毒薬を用意するよう命じる。水夫たちの合唱が、陸が近づいたことを報せる。
第4場
上陸の準備をするように告げにきたクルヴェナールを、イゾルデはトリスタンの謝罪がなければ上陸しないといって追い返す。ブランゲーネはイゾルデに思いとどまるよう懇願するが、イゾルデの意志は固く、ブランゲーネは激しく狼狽する。
第5場
トリスタンがイゾルデの前にやってくる。イゾルデはこれまでの恨み辛みを語ってトリスタンを責め立てる。二人はお互いに惹かれ合いながらもそれを直接言葉に表すことができない。トリスタンは剣をイゾルデに差し出し、いまこそモーロルトの仇討ちを果たすよう申し出る。イゾルデは手を下すことができず、ブランゲーネに用意させた薬を「和解の薬」としてトリスタンに渡す。トリスタンは死を覚悟して杯をあおる。イゾルデはトリスタンの手から杯をひったくり、自分も死ぬつもりで半分残った薬を飲む。ところが、薬は毒薬ではなく、ブランゲーネがとっさにすり替えた媚薬だった。たちまち愛の炎が燃え上がった二人は、互いに名前を呼びあいながら抱擁する。この事態に恐れおののくブランゲーネ。船がコーンウォールに到着し、周囲の船乗りたちの歓声が上がる。現実に呼び戻された二人は、自分たちの身に何が起こったのか理解しようとしてもがく。

第2幕 「コーンウォールにあるマルケ王の城中」

前奏曲
光や昼の世界を表す「昼(光)の動機」が冒頭に示される。バス・クラリネットの「焦燥の動機」が展開され、その頂点でフルートが示すのが「歓喜の動機A」。これに「憧憬の動機B」、「歓喜の動機B」が加わる。これらは、トリスタンを待ちわびるイゾルデの心象風景である。
第1場
コーンウォール城内、王妃となったイゾルデの館前にある庭園。狩りに出かけるマルケ王一行が吹き鳴らす角笛(舞台裏のホルン)が聞こえてくる。イゾルデは、王たちの留守にトリスタンが密会に来るのを待っている。ブランゲーネは、マルケ王の狩りがメーロトの進言によるものであること、メーロトはトリスタンを疑っていると懸念するが、イゾルデはメーロトはトリスタンの親友だとして意に介さない。
第2場
トリスタンが転がるように走り込んできて、イゾルデと抱き合いながら愛の言葉を交わす。これより長大な「愛の二重唱」。ブランゲーネは「見張りの歌」で二人に警告する。

「夜の国」を讃え、「愛の死」を歌い上げるトリスタンとイゾルデ。高揚する音楽がクライマックスを迎えたとき、突然ブランゲーネの叫び声が上がり、クルヴェナールが駆け込んできてトリスタンに逃げるよう告げる。しかし時すでに遅く、マルケ王とメーロトたち従臣が踏み込んでくる。
第3場
王の狩りは、トリスタンとイゾルデの関係を怪しむメーロトの密告に基づく罠だった。二人の裏切りを知ったマルケ王は長嘆しトリスタンに理由を問う。トリスタンは王に応えず、ともに「夜の国」へ行ってくれとイゾルデに話しかけ、イゾルデも「道を教えて」と応じる。メーロトがトリスタンに斬りかかり、トリスタンも剣を抜く。しかし、トリスタンはメーロトの剣にわが身を投げ出して重傷を負う。

第3幕 「ブルターニュにあるトリスタンの本城」

前奏曲
低弦が出す「孤独の動機」は、「憧憬の動機B」の半音階上行をヘ短調の全音階に置き換えたもの。独奏チェロが「トリスタンの嘆きの動機」を示し、トリスタンの心象風景を描く。舞台上でイングリッシュ・ホルンによる「嘆きの調べ」が、空漠とした海を表す。
第1場
深手を負い、気を失ったトリスタンはクルヴェナールによってブルターニュの城に連れ帰されていた。トリスタンは意識を取り戻すものの、傷は悪化しており、クルヴェナールは治療のためイゾルデに使いを送ったことをトリスタンに告げる。これを聞いてトリスタンは興奮し、幻覚の中で近づく船を見る。トリスタンは錯乱の余り昏倒するが再び我に返り、クルヴェナールに船を探すよう命じる。海を渡って自分のもとへやってくるイゾルデを想像しながら恍惚とするトリスタン。
牧人のイングリッシュ・ホルンが船影が見えたことを報せ、クルヴェナールはイゾルデを迎えに港へ駆け下りていく。
第2場
トリスタンはさらに興奮して包帯をはぎ取り、傷口から血が流れ出すのも構わず歩き出し、イゾルデを呼び続ける。イゾルデが大急ぎで現れる。倒れかかったトリスタンをイゾルデが抱き留める。トリスタンは最後の力を振り絞ってイゾルデの名を呼び、彼女の腕の中で息を引き取る。恋人の死に、イゾルデは気を失う。
第3場
牧人がもう一度船の到着を報せる。ブランゲーネ、ついでメーロトが現れる。クルヴェナールはメーロトを襲って殺し、メーロトにつづいてやってきたマルケ王とその家来たちにも撃ちかかる。致命傷を負い、トリスタンの足下で息絶えるクルヴェナール。マルケ王は2人の仲を許すためにイゾルデを追って来たのだったが、この光景を見て悲嘆に暮れる。
ブランゲーネに介抱されたイゾルデが意識を取り戻す。これよりイゾルデの「愛の死」。神々しく面変わりしたイゾルデがトリスタンの遺骸の上にくずおれる。ロ長調の主和音による終結。

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