『ラインの黄金』(ラインのおうごん、ドイツ語: Das Rheingold)は、リヒャルト・ワーグナーが1854年に作曲し、1869年に初演した楽劇。台本も作曲者による。ワーグナーの代表作である舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』4部作の「序夜」に当たる。
ラインの黄金 / Das Rheingoldの登場人物
・ ヴォータン(バリトン) 神々の長。北欧神話のオーディンに当たる。
・ アルベリヒ(バリトン) ニーベルング族の小人
・ ローゲ(テノール) 火の神、半神。北欧神話のロキに当たる。
・ ファーゾルト(バス) 巨人族
・ ファーフナー(バス) 巨人族、ファーゾルトの弟
・ ミーメ(テノール) ニーベルング族の小人、アルベリヒの弟
・ フリッカ(メゾソプラノ) ヴォータンの妻、結婚の女神。北欧神話のフリッグに当たる。
・ エルダ(アルト) 知恵の女神
・ フライア(ソプラノ) フリッカの妹、美の女神。北欧神話のフレイヤに当たる。
・ フロー(テノール) 幸福の神。北欧神話のフレイに当たる。
・ ドンナー(バリトン) 雷神。北欧神話のトールに当たる。
・ ヴォークリンデ(ソプラノ) ラインの乙女
・ ヴェルグンデ(メゾソプラノ) ラインの乙女
・ フロースヒルデ(アルト) ラインの乙女
・ ニーベルング族(黙役) ニーベルハイムに棲む小人族
ラインの黄金 / Das Rheingoldの構成
第1場 – ライン川の水底。3人のラインの乙女が泳いでいると、そこにアルベリヒが現れる。ラインの黄金が世界を支配する力を持つと聞いた彼は、それを強奪する。
第2場 – ヴォータンはフライアを報酬にして、巨人族に居城ヴァルハラを建設させる。城は完成したものの、フライアは巨人族に身を捧げることを拒否する。ローゲはラインの黄金を身代とすることを提案し、ヴォータンとともに地下のニーベルング族の国へ向かう。
第3場 – アルベリヒがラインの黄金で作られた指環の力でニーベルング族を支配している。ローゲは策略と弁舌でアルベリヒを捕縛する。
第4場 – 地上に引き立てられたアルベリヒから、ヴォータンは自由の代償としてラインの黄金を奪取する。アルベリヒは指環に死の呪いをかける。エルダが現れ警告を発するが、ヴォータンは聞き入れない。指環を手に入れた巨人たちは、財宝を巡って争いを起こしファーフナーがファゾルトを殺してしまう。神々は呪いに恐れおののくが、一転して虹の橋を渡りヴァルハラに入場する。剣の動機が高らかに奏され英雄の登場を暗示する一方、ラインからは黄金を奪われた乙女の嘆きが聞こえる。
ラインの黄金 / Das Rheingoldのあらすじ
全1幕、4場からなる。各場は管弦楽の間奏によって切れ目なく演奏される。
序奏
コントラバスの低い変ホ音の持続で始まる。ファゴットがこれに加わり、やがてホルンが「自然の生成」を表す動機(「生成の動機」)を奏し始める。序奏は、この変ホ長調の主和音を持続させたまま、世界の生成・変容を表現する。これをワーグナーは「世界の揺籃の歌」と呼んだ。ホルンが8本まで重ねられると、ファゴットが「ラインの動機」、チェロを始めとした弦楽器群が「波の動機」を示して高揚していく。金管を加えて頂点に達したところで開幕。
第1場 ラインの河底
舞台はライン川の河底。ニーベルング族のアルベリヒは3人のラインの乙女たちに言い寄るが、乙女たちは彼を嘲弄する。アルベリヒは河の底に眠る黄金を見つける。ラインの乙女たちから、愛を断念する者だけが黄金を手にし、無限の権力を得て世界を支配する指環を造ることができると聞かされたアルベリヒは、愛を捨てて呪い、黄金を奪う。
第2場 広々とした山の高み
ヴォータンは巨人族の兄弟ファーゾルトとファーフナーにライン河畔の山上に居城「ヴァルハラ」を造らせ完成させていた。兄弟へは報酬として女神フライアを与えるという契約になっていた。しかし、もともと約束を果たすつもりのないヴォータンは、この契約を勧めたローゲに考えがあるはずとして、ローゲに事態の収拾を図らせようとする。
ローゲはアルベリヒがラインの黄金を奪い去ったことをみなに話し、ラインの乙女たちが指環を取り戻してほしいと願っていることを伝える。ニーベルング族とは確執のある巨人たちは財宝の話に惹かれ、フライアの代わりの報酬にせよと言い出す。ヴォータンは自身が世界を支配する指環を得たいと望んだことからこの申し出を拒む。怒った巨人たちは、フライアを人質にして連れ去ってしまう。フライアの作る若返りのリンゴが食べられなくなった神々は若さを失い始める。意を決したヴォータンは、ラインの黄金を手に入れるためにローゲを伴って地下に降りてゆく。
第3場 ニーベルハイム
地底のニーベルハイム。アルベリヒはラインの黄金を指環に矯め、その力でニーベルング族の王となって、弟のミーメも隷属させていた。ミーメは、アルベリヒの指示で造らされた魔法の隠れ頭巾を密かに奪おうとして、アルベリヒに見つかり、むち打たれる。
ヴォータンとローゲはミーメから事情を聞き出し、アルベリヒに近づく。アルベリヒは2人を警戒するが、次第にローゲの口車に乗せられ、おだてられて魔法の隠れ頭巾を使ってカエルに変身してみせたところを捕らえられてしまう。ヴォータンとローゲはアルベリヒを縛り上げ、地上に拉致する。
第4場 第2場に同じ
再び山上の開けた台地。ヴォータンはアルベリヒに身代金を要求し、アルベリヒは仕方なくニーベルング族を使ってかき集めた財宝を差し出す。それでもアルベリヒは許されず、ローゲに魔法の隠れ頭巾を奪われ、ヴォータンからはラインの黄金を鍛えた指環を無理やり取り上げられてしまう。ようやく自由の身になったアルベリヒは、指環に死の呪いをかけて去る。しかし、念願の指環を手にしたヴォータンは意に介さない。
巨人族の兄弟がフライアを連れて現れ、フライアの身の丈と同じだけの財宝を要求する。ローゲとフローがニーベルング族の財宝を積み上げていく。ローゲが隠れ頭巾を差し出してもまだ足らず、巨人たちはヴォータンの指環を要求する。ヴォータンはこれを断固拒絶、指環はラインの乙女たちに還してやってはというローゲの申し出にも取り合わない。
このとき舞台は暗転し、岩の裂け目からエルダが登場する。エルダはヴォータンに、呪いを避けて指環を手放すよう警告し、世界の終末が迫っていると告げる。ヴォータンは指環を巨人たちに渡し、フライアを解放させる。財宝をすべて手に入れた巨人の兄弟は、その取り分をめぐって争い始め、ファーフナーはファーゾルトを棍棒で打ち殺す。アルベリヒの呪いが早くも現れたことに衝撃を受けるヴォータン。
ドンナーがハンマーを振るって雲を呼び集め、雷を起こす。これより「ヴァルハラ城への神々の入城」の音楽。フローが神々の城に虹の橋を架ける。ヴォータンは城に「ヴァルハル」と名付ける。「剣の動機」がトランペットで現れ、英雄の登場を予告する。虹の橋を渡って神々は入城してゆく。残ったローゲは、神々の没落を見通し、炎となってすべてを焼き尽くしてしまおうと独白する。ラインの娘たちの嘆く歌が谷底から聞こえてくる。「ヴァルハルの動機」や「虹の動機」による、壮大で圧倒的な音楽による幕切れ。